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第2話  

 「私はママが離婚証書を入れていたクッキー缶の中で、パパの写真をたくさん見たことがあるの。ママは彼の写真をたくさん集めていて、表彰台でトロフィーを持っている写真だけでも十枚くらいあったよ。それに、ウェディングドレス姿の写真をしゃがんでママに渡す写真とか、ママのほっぺにキスしている写真も......」

 私は少し後悔している。離婚した後、すぐに捨てるべきだったのに。

 でも、あの時はどうしても捨てられなかった。

 杏奈は期待に満ちた目で山田瑞臣を見つめ、「あの人が私のパパなの?」と聞いた。

 山田瑞臣も彼女に嘘をつくのは忍びなかったか、正直に「そうだ」と答えた。

 杏奈は嬉しそうに笑って、「幼稚園の友達に、パパもママもいないってからかわれてた。これで私もパパができた!やった!」と言った。

 しかし、突然彼女の口元がまた悲しそうに下がった。「瑞臣おじさん、でもパパは私とママを捨てたの?」

 山田瑞臣は杏奈の頭を撫でながら、「大丈夫だよ、パパは杏奈のことを捨てたりしないよ」と言った。

 父親の愛を求める杏奈の姿を見て、私は胸が締め付けられるような思いがした。

 彼女を抱きしめたくて手を伸ばしたが、その手は杏奈の体をすり抜けた。

 その瞬間、私は自分がすでに4年前に死んでいたことを忘れていた。

 次の日、幼稚園のお昼休みに、杏奈は先生に携帯電話を借りた。

 彼女はひとりでトイレに隠れ、昨日渡された名刺に書かれた顧熙年の番号に電話をかけた。

 「もしもし——」

 「昨日、名刺をくれた女の子です。ちょっと質問してもいいですか?」

 危うく、杏奈が彼をパパと呼ぶところだった。

 しかし、私の心は強烈な不安が押し寄せ、慌てて杏奈の携帯を奪おうとした。

 またしても、私の体は杏奈の体をすり抜けた。

 渡辺直熙の許可を得ると、杏奈は彼に試すように尋ねた。「直熙おじさんはママのことが好きですか?」

 私はまるで雷に打たれたような衝撃を受けた。

 杏奈は昨晩、私の遺品をもう一度見返し、日記の後ろに書かれていた「渡辺直熙、私のことが好きですか?」という一文を見つけて、再び長い間考え込んでしまった。

 杏奈はパパを認めてほしいわけじゃなく、私の代わりにその答えを求めたのだ。

 でも、お願いだから聞かないでほしい。

 もう離婚して五年、死んでから四年も経っている。

 その答えは、私にとってもうそれほど重要ではない。

 電話の向こうからは嘲笑混じりのが聞こえた。「それ、まさかお母さんが言わせたんじゃないだろうな?自分の娘を道具に使うなんて、本当に節操のない女だな。もう杏奈のお父さんと結婚したくせに、まだ私と復縁したいとでも思っているのか?」

 渡辺直熙の口から次々と飛び出す難しい言葉を、杏奈が理解できるとは思えなかった。

私は胸が締め付けられる思いだったが、同時に彼女の語彙力がまだ乏しいことに少し安堵した。

杏奈は少し大きな声で聞き返した。「ママのことを悪く言ってるのですか?」

 「ふん......こんな不貞な女を悪く言っちゃいけないのか?」

 不貞?

 私は何も悪いことはしていない。むしろ、あなたとその幼馴染の田中清音こそ、ずっと曖昧な関係だったじゃない!

 杏奈の目から涙がポタポタと流れ、私は慌てて彼女の涙を拭おうとしたが、またしても手がすり抜けた。

 「ママはもう4年前に死んだんですよ。それでもママを悪く言うのですか?直熙おじさんなんてひどい人です......ううう......」

 そうだ、私はもう4年前、離婚してから1年後に死んでいる。

 電話の向こうからは信じられないような声が返ってきた。「死んだ?あいつみたいな悪女が死ぬわけないだろ。俺が死んでもあいつは生き残るはずだ」

 杏奈は悲しみと怒りで震える声で言った。「直熙おじさんなんてもう知りません。ママのお墓の前で、もう直熙おじさんを好きにならないでってお願いします。ママが残してた直熙おじさんさんのもの、全部燃やしちゃうんだから!ううう......」

 杏奈は息も絶え絶えに泣きじゃくった。

 私はどうしようもない焦りと悲しみで、その場を右往左往していた。

 すると、電話の向こうからこもった声が聞こえてきた。

 「本当に......杏奈のお母さんは死んだのか?」

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